ヘイズ HAZE

ロングステイ

 2019年9月のマレーシアで発生したヘイズ(煙害)は、かつてないほどの規模になっています。

 ヘイズのもともとの意味は、気象用語で「煙霧」を意味する英語ですが、現在では微粒子により視界が悪くなる大気現象全般をヘイズと呼びます。

 マレーシアやシンガポールでいうヘイズとは、インドネシアのスマトラ島などでの焼畑農業が原因で起こる大気汚染=煙の事を指します。ヘイズはマレーシア、インドネシアの乾期にあたる4月〜10月にかけて悪化します。

 スマトラ島で大規模な焼き畑や火災によって発生した煙はモンスーン(季節風)によって、マレー半島にもやってきます。4月から10月にかけての乾期は、季節風が南東から北西に抜けるように吹きます。つまり、インド洋(やアンダマン海)から南シナ海に向けて吹くのです。(10月から3月にかけては逆に南シナ海からインド洋に向けて風が吹きますから、スマトラ島の煙はマレー半島に来ないというわけです。)

 筆者は2013年の8月上旬から中旬にかけて、シンガポールでヘイズを体験しました。その時は10年ぶりぐらいのひどさといわれていました。一番ひどい日は、”煙”であることがはっきりとわかり、焦げ臭いにおいがしました。街中もやがかかったようになり、夜の街灯がぼんやりと笠をかぶったように光っていました。

2019年9月のマレーシアのヘイズ

Malaysia to push Southeast Asian nations for long-term solution to smog | New Straits Times
KUALA LUMPUR: Malaysia will push its Southeast Asian neighbours to strengthen cooperation in finding a long-term solutio...

 オンラインニュースの写真を拝見すると、とんでもない汚染が発生しているようです。

 ヘイズには、汚染度を示す指数があり、現在マレーシアでは、アメリカや日本と同じような指数であるAPIと呼ばれるものを使用しています。

 従来のAPI指数では、”一酸化炭素(CO)”、”オゾン(O3)”、”二酸化窒素(NO2)”、”二酸化硫黄(SO2)”、”粒子状物質(PM10)”といった一般的な大気汚染物質が対象に含まれていましたが、PM2.5は考慮されていませんでした。

 2018年8月16日以降、従来のAPIにPM2.5を加えた指数に変わっています。現在、新APIとかAQIと呼ばれる指数で、お隣シンガポールのPSIや、アメリカのAQIとほぼ同じものになっています。

API指数分類
0 – 50良好 (Good)
51 – 100やや不良 (Moderate)
101 – 200不健康 (Unhealthy)
201 – 300非常に不健康 (Very Unhealthy)
301 以上危険 (Hazardous)

 現在、大抵の場所で、100を超え不健康とされ、200を超えることが度々起こるという状況です。

 マレーシア在住方々も、外出をなるだけ控えるなどの対応をなさっています。

 のどや、鼻に異常を感じるといった自覚症状のある方もおられます。特に、喘息などの既往症のある方は要注意だそうです。

参考新APIの計算方法: http://apims.doe.gov.my/public_v2/pdf/Introduction_of_PM25.pdf

世界各地のAQI指数をリアルタイムで見ることができます。: https://waqi.info/ja/

ヘイズの原因

 ヘイズの原因は、焼き畑農業にあるといわれてきましたが、最近では別の要因もあり、状況は複雑化・悪化しているようです。

 古くは、ジャングル、その後はゴムの木ですが、それぞれは寿命が長く、人間が無理やり焼いて畑にしようとしなければヘイズにはならないのですが、最近では、ゴムの栽培よりも、パームツリー(パームオイルを取る木)が増えてきており、パームツリーの場合、寿命が10年ぐらいなので、どうやら、それを安易に燃やしちゃうみたいなんですね。

 インドネシアの人が燃やしちゃってるという図は変わらないと思いますが、どうやら、パームツリーがらみで、マレーシアの企業も煙害に加担しているようなのです。(ついでに燃やしてはいけないものも燃やしているといううわさもあります。)

 規制を強化する方向ではあるようなのですが、どこまで追い切れるのか、簡単な話ではなさそうです。

楽しみに行くには不適当だが、将来住むなら行ってみては?

 9月末から10月中旬ぐらいには風向きが変わるので、マレー半島のヘイズは下火になるでしょう。マレーシア方面に遊びに行くなら、風向きが変わってからがおすすめです。

 一方、将来、ロングステイを考えているなら、ヘイズがどんなものか経験してみるのも一興。既往症によってはとても住んでいられないとなるかもしれません。

 日本の家を処分して、退路を断ってマレーシアに行くのであれば、ヘイズという大気汚染の中で暮らせるのか、または、マレー半島からヘイズの一時期逃げ出せるすべがあるのか、個人差が大きい部分ではありますが、体調に不安(特に呼吸器やアレルギー)がある方にとっては、ロングステイの是非を左右するような大きなポイントになりかねません。

 筆者は経験上おそらく大丈夫だし、本当にやばければ、日本に一時帰国するか、風向きが変わるまで、どこかに逃げるつもりですから、あんまり気にはしていません。

 しかし、今年はかなりひどいみたいなので、この時期にマレーシアに行くなら、マスクを持参したほうがいいです。

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ヘイズは1か月でアメリカ一年分?のCO2(二酸化炭素)を排出 10/3追記

CO2排出量たった1か月で米国1年分 インドネシアのヘイズ問題にシンガ、マレーシア大企業も加担 | JBpress (ジェイビープレス)
良好なはずのアジアの2人のリーダーの関係に暗雲が立ち込めている。「支援をずっと申し出ているが、インドネシアがなぜ我々の支援を拒むのか分からない。ジョコ大統領に聞いてみたいがね」。9月(1/6)

 JBPress 10/2付け記事のよると、近年最悪の被害だった2015年では、260万ヘクタール(クアラルンプール107個分、東京都12個分、大阪府13.7個分、大阪市117個分)もの森林が焼失したとのこと。

  今年は特にエルニーニョ現象発生のため、乾燥した気候が続き、「煙害は、近年最悪だった2015年を上回る勢いだ」(インドネシア環境専門家)という。
 NASA(米航空宇宙局)は衛星画像の分析から「近年最悪だった2015年以上の災害が広がっている」と明らかにしている。このままだと東南アジアの大気汚染史上最悪の事態を招きかねない。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57750?page=3

ヘイズは東南アジアだけの問題ではない。実は全地球的にも大きな問題となっている(「21世紀最大の環境破壊」=中東メディアのアルジャジーラ)。
 2015年9月から10月の1か月間で森林焼失により発生した二酸化炭素量は、米国の年間排出量を超えたのだ。この年の1年間では、過去最大の15億トン以上が排出された。
 また、煙には二酸化炭素だけではなく、二酸化窒素、二酸化硫黄、PM2.5などの有害物質も含まれる。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57750?page=3

 2015年の米国のCO2排出量は50億トンでした。ヘイズの森林火災はこれを一か月間で排出したと記事に書かれていますが、一年間で15億トンとの記載もあり、???です。15億トンであれば、アメリカの排出量の3か月半ぐらいです。

 ただ、15億トンだとしても、とんでもない排出量であり、インドネシアの排出量が5億トンなので、工業化による人為的な排出量よりも、はるかに多いわけです。なお、世界の排出量は326億トンでした。つまり、森林火災だけで全世界の一年間の排出量の5%弱を排出したわけですし、本来ならCO2を吸収してくれる森林を燃やしたのですから、非常に罪深いといえるでしょう。

 ちなみに、日本の排出量は12億トンぐらいなので、日本一国の排出量より多いわけですが、それだけの環境を犠牲にしても現地の人たちが得られる経済的な効果が低すぎますね。

 国家間の争いや利権など、背景は複雑で、どうやら、解決に向かうにはまだまだ問題が多いようですが、ヘイズは、単に東南アジアの一地域の大気汚染というだけではない大きな影響を地球に与えているようなので、わが日本も一定の役割を果たしていく必要があるのではないかと思います。

 

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