セカンドホーマー
MM2Hは、”Malaysia My Second Home Program”といい、マレーシア滞在義務がなく、10年間の滞在と回数制限なくマレーシアへの再入国可能な許可が得られるプログラムです。
この制度を利用して、マレーシアにロングステイしている人のことを、”セカンドホーマー”と呼ぶことが多いです。これは、MM2H制度の名前に由来しています。
このような背景により、マレーシアでMM2Hを取得してロングステイされている方に限定して使われることが多く、他の国(例えばタイなど)でロングステイされている方は、セカンドホーマーとはあまり呼ばないようです。ですから、セカンドホーマーというとイコールマレーシアであり、MM2Hだと考えていいでしょう。(一般的に海外長期滞在者はロングステイヤーと呼ぶことが多いです。)
マレーシアに仕事を持ち、就労ビザで滞在していたり、婚姻して永住者になったりした方の場合はセカンドホーマーとは呼びません。(この場合は、マレーシアがホームですからね。)
MM2Hのおさらい
MM2Hは、マレーシア滞在義務がなく、10年間の滞在と回数制限なくマレーシアへの再入国可能な許可「Multiple Entry VISA」が得られるプログラムです。このプログラムには、取得条件と維持条件があり、10年後も維持条件を満たしていれば更新可能で、マレーシアの滞在許可に関しては永住権に近いものです。(誤解を招かないように申し添えますが、滞在についての自由が似ているというだけで、永住権とは異なります。)
MM2Hは、永住権や就労ビザなどと異なり、原則としてマレーシア国内で働くことはできません(一部例外はありますが極めて限定的なものなので、ここでは割愛します)。
いくつかの場面では、MM2Hは”準マレーシア国民”のように扱われるケースがあります。
例えば、割引料金の対象になったり、免許の書き換え発行の対象になったり、空港では、外国人ではない別レーンで出入国できたりします。
歴史的には、1996年にMM2Hの前身である”シルバーヘアプログラム”がスタートし、2002年にMM2Hプログラムに制度変更され現在に至っています。当時、シルバーヘアプログラムを取得した人はごく少数に限られていましたが、ここ最近は、年間3,000人以上が取得しているようです。
MM2H取得者数
MM2Hの公式ホームページには、取得者数などの統計が公表されています。(MM2H Official Potal MM2H PROGRAMME STATISTICS : )
下記は、公表されている取得者数推移です。
取得者数は右肩上がりで、このプログラムがそれなりに評価されているプログラムであると言えるのではないでしょうか。
次に、国別の取得者数を見てみましょう。
2002年から2018年までの累積では、中国がトップで全体の30%を占め、ついで第2位は日本で、11.3%を占めています。しかし、ここ最近では、中国が急速に増えており、一国で過半数に迫る勢いです。また、韓国、バングラデシュも急激に伸びています。
日本だけに注目してみましょう。
年 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | |
取得者数 | 49 | 99 | 42 | 87 | 157 | 198 | 210 | 169 | 195 | |
年 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 累計 | |
取得者数 | 423 | 816 | 739 | 428 | 300 | 281 | 352 | 233 | 4778 |
日本人の取得者は、2000年代は徐々に増えてきて、2010年台は東日本大震災の影響で急増した2011-13年を除くと、200-300程度で推移しています。今現在は、一定の取得がある安定した状態ではないかと思われます。
なお、2018年は、10月以降審査会議が中断し、全世界で3,727の申請が、2019年2月まで保留されたということもあり、大幅に減っています。こういった事情を差し引くと、おそらく、日本人だけで申請数は年間300はあるだろうと思います。
MM2Hを取得した人の内、実際にセカンドホーマーになった方がどれくらいなのか定かではありません。また、セカンドホーマーになっても数年で本帰国される方も多いので、MM2Hを取得した数ほどにはいらっしゃらないようです。おそらく数百人程度ではないかと思います。
MM2H取得の経済的条件
取得に当たって、細々とした条件はありますが、経済的側面が一番大きいので、そこに注目しましょう。
取得条件(経済的側面 2019年8月現在)
取得条件 | 50歳以上 | 50歳未満 | 備考 |
金融資産 | RM35万以上 | RM50万以上 | 銀行預金残高3ヶ月分 |
月収 | RM1万以上 | RM1万以上 | 給与振込銀行ステートメント3ヶ月 配偶者の収入加算可能。ただし30%未満 |
維持条件(経済的側面 2019年8月現在)
維持条件 | 50歳以上 | 50歳未満 | 備考 |
定期預金 | RM15万 | RM30万 | MM2Hプログラム中は引き出せない。 (一部条件付きで引き出し可能*) |
VISA代金 | RM90/年 | RM90/年 | VISA申請時に年数分前払い |
RM35万は、現在のレートで約900万円。為替レート次第では、1,000万円を超えてきます。この資産は、あくまでも金融資産なので、持ち家であっても不動産はカウントできません。(逆に、借金をしていても、金融資産として持っていてちゃんと残高が証明できればOKです。)
また、定期預金は、50歳以上であれば、今のレートで390万円ぐらいですが、これは、原則引き出せません。(* 2年目以降は、マレーシアの不動産購入や、医療費、同行したお子様の教育費、自動車新車購入費などいくつかの決められた目的で、一部:50歳以上RM5万、50歳未満RM15万まで引き出し可能)
まとめますと、約1000万円の金融資産を持ち、そのうち最低でも400万円を余剰資金として生活費とは別に保有できることが最低条件です。
また、これら以外にも、MM2Hの取得のための諸経費として、数十万円がかかります。(参考記事)
セカンドホーマーの世代
マレーシアでセカンドライフ(第二の人生)を送っていらっしゃる方々で、今、一番”脂が乗っている”中心世代というと、2019年現在で60歳代の後半(満65-69歳)から70歳代前半の方々ではないでしょうか。MM2Hのプログラムで、マレーシアロングステイを切り開かれた第一世代は70歳代後半から80歳代に差し掛かっていますが、いろいろな事情でロングステイを卒業して日本に本帰国(本帰国:MM2Hのビザの返納を含む引き上げ帰国のこと、一時帰国と区別した呼び方)される方もいらっしゃるので、以前よりは少なくなっていると思います。
2019年現在、60歳代後半(満65-69歳)の方々の生まれ年は、1950年〜1954年(昭和25年〜29年)です。
みなさんもご存知のように、これまで、MM2Hでマレーシアでのセカンドライフを送ってこられた方々からのいろいろな情報が発信されていますが、主に、この世代の方々が発信源です。中にはお若い方もいらっしゃいますが、アーリーリタイアを実現されたり、親子留学であったり、または、普通のセカンドライフであっても、旦那様と奥様の年齢が離れていらして、奥様が40代、50代であったりするケースで、現役時代に生計の主体者だった方の年齢が非常にお若いケースはまれです。
この間の年金の制度の変遷を見てみますと、現在、男性で78歳、女性で73歳より年齢が上の方は、60歳から年金が満額支給されていました。
参考 : 年金支給開始年齢早見表(PDF)
この年代の方々は、ちょうど、シルバーヘアプログラムや初期のMM2H制度でセカンドホーマーになられた言わば、”パイオニア”的世代と言えましょう。
特に牽引役を果たした”阪本恭彦氏”を始め、パイオニア世代の方々は、マレーシア政府への働きかけや、新たにセカンドホーマーとして訪れる新人にボランティアで手助けをするなどの極めてアクティブな活動により、MM2Hやセカンドホーマーの名を日本人に広く知らしめることとなりました。
この、MM2Hの黎明期とも言える時期の世代を、セカンドホーマーの第一世代と(セカンドホーマー1.0)と呼ぶことにします。
2010年台に入ると、60歳から年金が満額支給されなくなる世代が、第一世代の導きにより、マレーシアの地を踏み始めます。
一方、厚生年金の報酬比例部分だけをみると、現在、男性で66歳、女性で61歳より年齢の上の方は、60歳から報酬比例部分は支給開始されています。
ところが、現在、男性で58歳未満、女性で53歳未満の方は、65歳になるまで、全く年金は受け取れません。
年金支給額の男性の平均値は、165,668円で、うち、老齢基礎年金は、平均55,615円です。
概算ですが、報酬比例部分の平均は約11万円です。(女性の場合、厚生年金の支給額平均は103,026円で、報酬比例部分の推定は、約5万円弱です)
年金が60歳から満額支給されていた世代ではなくても、今の66歳以上の方は、60歳から65歳までの間、夫婦でおよそ15万円強の年金が受け取れていたということです。(個人により、大きく事情が異なりますので、あくまでも平均の話をしています。)
60歳定年で年金を満額受給できなくなっても、経過措置により、報酬比例部分が受給できた方は、平均すると月15万円程度の年金を受給されています。満額支給ではなくても、非常に大きな助けになったはずです。
この、年金制度の変更による経過措置により、変化してきた世代を第二世代(セカンドホーマー2.0)と呼びましょう。
そして、今、これから定年を迎えて、第2の人生を計画しようとしている世代は、60歳の時点では、全く年金が支給されないため、60歳でセカンドライフを迎えようとすると、それなりの蓄えが必要となってくる世代です。この世代を第三世代(セカンドホーマー3.0)と呼び、これからの新たな世代におけるMM2Hの位置づけについて考えていきたいと思います。
クアラルンプールロングステイヤーの生活費
複数のクアラルンプールロングステイヤーの方から、おおよその生活費概算をお聞きしました。実は、この生活費は、非常に個人差が大きくて、詳細を聞かないとちゃんとした比較ができません。ある方は、ご夫婦でそれぞれが1台づつ車に乗っていたり、またはお車を持っていなかったり、ある方は、三食外食、ある方は、ほとんど外食をなさらない、アルコールをどれだけ嗜まれるか、ゴルフや娯楽にどれだけ使うか、など、生活パターンや考え方、もちろん経済的な土台が違います。そういうことをある程度無視して、無理やり標準的な線を割り出すと、一ヶ月の生活費は、およそRM8,000です。これには、住居費(コンドミニアムの家賃)も含みます。
上記は、あくまでも標準的なケースですので、個人個人で大きく異なりますが、概ねこの近辺ではないかと思います。現在のレートで日本円にして、21万円程度です。(RM1=30円といった過去からの平均的な為替レートの場合は24万円です)。
たまたまかもしれませんが、夫婦の平均的な年金額28万円/月に妙に符合します。月4-7万円の余裕分は、日本への一時帰国だったり、近隣への旅行の費用などで消費するでしょう。
(今回お聞きした範囲では、ネット情報などで紹介されているような月6万円で生活なさっているケースには出会えませんでした。)
多少節約するとしても、一ヶ月で15-20万円ぐらいの生活費は最低限かかってくると考えるべきです。少なくとも、セカンドライフをある程度楽しみながら生活するにはです。(単純にコストを抑えることは可能だと思いますが、なんのためのセカンドライフなのかよく考えないといけません。)
MM2Hの第2世代が、60歳定年ですぐにロングステイに飛び込むとすると、年金を受給できるまでの5年間で、900-1,200万円の生活費が必要ということになります。さらに、少しゆとりのある生活を考えて月30万円を想定すると、5年で1,800万円もの費用がかかります。
(平均値RM8,000/月で考えると、5年間でRM48万)
クアラルンプールでのロングステイ初期費
ここでは、いかに生活コストを抑えるかという話はしません。今、まさに楽しくセカンドライフをエンジョイされているロングステイヤーのみなさんと同じくらいの生活に焦点を当てています。
ゴルフやテニスなどのスポーツだったり、習い事にも参加するし、車社会であるマレーシアで自家用車も所有します。そういう暮らしです。
残念ながら、マレーシアは車が高価です。もちろん車種によって価格の幅はものすごく大きいのですが、なんだかんだでRM10万ー15万と考えておいたほうがいいでしょう。(もう少し安い車もありますし、高い車はきりがありません。)
ゴルフをされる方は、ゴルフ会員権を取得し、プレイフィーを安く上げておられます。ゴルフ好きの方は、週3とか週5は当たり前ですので、ビジター料金を払っていてはそれこそいくらお金があっても足りません。
ゴルフ会員権もピンから切りまでありますが、名変料含めて、RM5万-10万程度。
車とゴルフ会員権だけで、RM15万-25万ぐらいかかると考えるべきです。
大抵の賃貸コンドミニアムは、家具・家電付きですが、それでも、色々と買い足すものがあると思います。 そういった初期費もかかってきます。日本から荷物を輸送する場合は輸送費もかかりますし、ワンちゃんにゃんこのようなペットを連れてくるにもお金がかかります。インターネットを契約したり、パソコンを新調したりすると、結局RM数万ぐらいはかかるかもしれません。日本のテレビもみたいですよね。
そういった初期費にRM5万見ることにしましょう。(これは、人により事情がだいぶ異なります。)
ロングステイ初期費は、RM20万ー30万かかると思ったほうがいいです。
ある、ロングステイヤーの方は、ご夫婦で、車2台、ゴルフ会員権などで、RM31万かかっています。また、ペットを日本から連れてきたので、その費用もかかっています。なんだかんだで、1000万円ぐらい初期費がかかったとのことでした。(この方の場合、車の税が保留されている特典があった頃のことなので、今同じことをしようとすると、もっと費用がかかります。)
幅はありますが、500-1,000万円ぐらいの初期費がかかってしまうということです。
セカンドホーマー世代間比較
60歳定年で、すぐに年金がいただけた世代「セカンドホーマー1.0」の方は、初期費用さえなんとななれば、あとは年金でセカンドライフが可能です。
「セカンドホーマー2.0」世代は、年代により大きく変化していますが、2019年現在60代後半で、一部年金をいただけていた方々は、月5万円程度の赤字ですから、300万円程度の生活費が準備できれば良いので、初期費用と合わせて1,000-1,500万円あれば、なんとか離陸できそうです。退職金などで賄える方は多いのではないでしょうか。
ちなみに、大卒定年退職者の退職金平均額は2,173万円だそうです。個人差はあると思いますが、それまで、全く蓄えがなかったとしてもなんとかなりそうです。
しかし、これから定年を迎える第三世代「セカンドホーマー3.0」は、5年間の生活費負担が重くのしかかってきますから、同じように60歳でリタイアしたいと思えば、初期費合わせて、1,400-2,800万円のお金が必要です。
平均的な退職金額だった場合、退職金が最初の5年間に消えていくことになり、極めて厳しいと言わざるを得ません。
このように、これからの世代は、一気にハードルが高くなってきているのです。
退職前の貯蓄について考える
平均貯蓄額を調べると、50-59歳で、1,050万円というデータになっています。
これが正しければ、50歳のときに、MM2Hを取得し、この貯蓄の内、半分の800万円(RM27万)をMM2Hの定期預金に回せば、年利3%以上で運用できますから、10年後には、およそRM35万に増やすことが可能です。
車の購入向けにMM2Hの定期からRM5万はひきだせますので、MM2Hで拘束されるRM10万を除くRM25万が初期費に使える金となります。
これで、なんとか、初期費に当てて、残りの貯蓄額200万円と退職金2100万円で合計2300万円から、5年分の生活費を捻出すると残りは、1,100万円です。心細いですが、なんとか成立するギリギリではないでしょうか。
しかし、この話にはトリックがあります。平均貯蓄額は1,050万円ですが、この数字には、大富豪の貯蓄額が入っており、平均を引き上げているのです。平均値ではなく、中央値の場合は、500-700万円程度と推定されているそうで、かなり厳しい現状が浮かび上がってきます。
貯蓄額が500万円であったとしたら、MM2Hの取得の際の定期預金に充当するお金でせいっぱですから、高金利を味方につけてお金を増やしても、使えるお金には限りがあります。
何とかRM17で定期預金を開始したとして、10年間で、RM22万にはなるでしょうが、初期費と5年間の生活費を考えると、本当にぎりぎりのすれすれという状況です。
少し生活を質素にしないといけないレベルかと思われます。
セカンドホーマー3.0
年金受給開始時期が65歳まで遅くなり、大きく変化してしまった今、まさに今この瞬間にセカンドライフをマレーシアで楽しく過ごされている方々と同じような生活を夢見ることはできないかもしれないという現実が見えてきます。
65歳まで働いて、それからセカンドライフに入るか、それとも60歳までにもっと稼いでおくかしないと、同じようには過ごせません。
ロングステイヤーの先輩方の情報は大変貴重ですし、そのご経験に学ぶところは多いはずですが、経済的な面については、入念に注意する必要があります。
筆者は2019年現在55歳であり、「セカンドホーマー3.0」世代です。(筆者の定義では58歳未満)
「セカンドホーマー2.0」の世代でも、後半の方は、かなり「3.0」に近い状況で、概ねこれから60歳の定年を迎える方は、現役の間にそれなりの貯えがないと、60歳からセカンドホーマーとしてマレーシアに飛び立つことは極めて困難です。
ここでいう経済的に恵まれているとは、必ずしも現役時代の貯えがあるということだけではありません。ネットビジネスなどの”副業収入”があるなど、月に15万円程度の収入が見込める人は、セカンドホーマー2.0と同じような条件になりますし、月30万円以上であるなら、貯蓄を取り崩さずに生活できるでしょう(初期費除く)。
これからセカンドライフを考え始て、マレーシアロングステイ検討する皆さんは、すべて、”セカンドホーマー3.0”世代ということになります。経済的な理由から、1.0や2.0の方の体験談をそのまま実現できるわけではありません。
本当のアジア マレーシア情報 (Truly Asia Malaysia Navigation)では、セカンドホーマー3.0を意識した記事も今後増やしていきたいと思います。
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