プラナカン 東南アジアを動かす謎の民
太田泰彦 著
日本経済新聞出版社
ISBN978-4-532-17635-8
目次
プロローグ 謎に包まれた民
第1章 リー・クアンユーの秘密
- アジアに流れる時間
- 「私をそう呼ばないで」
- リー・シェンロン首相の告白
第2章 色彩とスパイス
- 12歳の目覚め
- 二度目の覚醒 ー 拾ったタイルで稼ぐ商魂
- ババ・ニョニャの家
第3章 日本が破壊したもの・支えたもの
- 因縁の三年半
- 見えない絆
第4章 通商貴族の地政学
- 億万長者通り
- 砂糖王とシンガポール
- プーケット島のスズ鉱山
- ラッフルズと偉大な慈善家
- 東南アジアを動かしたタイ外交官
- ジャワ島のサバイバル装置
第5章 明日を継ぐもの
- 味覚の新境地を開く
- ゴッホはなぜ生まれたか
- 美意識で空間を埋め尽くす
エピローグ 消えていくときが来た
あとがき
特徴と感想
本書は、東南アジアの近代史に深く関わっている謎の民族「プラナカン」を、歴史的、政治的、経済的な面に目を向けながらも、一つのプラナカン物語として、東南アジアの独特の空気感や時間の流れを感じさせる良書です。
プラナカンの定義については、諸説あり、狭義には、マラヤ連邦海峡植民地で、支配者である英国人に取り入り特権的階級であった華人とも言えますが、本書では、非常に広義に捉えているところが特徴です。賛否が別れるところですが、東南アジアの多様性を鑑みると、広義に捉えるのも一興かと思います。
プラナカンという言葉を初めて耳にするのはどういうタイミングでしょう。普通に日本で生活している限り、ほとんど耳にすることはないと思います。筆者の場合は、シンガポールに駐在し始めて、少し経った頃でした。
仕事が非常に忙しかった頃で、シンガポールに行くと言っても、仕事ばかりで、シンガポールがどんなところかさっぱり知りませんでした。ちょっとの英語と、ほんの少しの地理や、電車やタクシーの乗り方がわかれば、何も知らなくても生活できるくらいの大都会です。
自分が住んでいたのは、カトンと言われる地域で、プラナカンの町並みが残る有名な場所だということは後から知りました。でも、後から知ったという知識ですら、「この地域に移住してきた華人がマレーの民と交わり住み着いた人たちで、中国ともマレーとも違う文化を生み出した」という、観光ガイド程度の知識でした。
その後、シンガポールに2年間駐在したことや、マレーシアとの違いなどを見る中で、プラナカンの存在が、この地域の成り立ちを理解する上で、なくてはならないものであることにだんだん気づいてきました。
彼らは、華人の末裔ですが、現代の中国(中華人民共和国)の民と同一視されることを嫌がる方が多いように思います。私自身は、「自分はプラナカン」だ、「ババだ」、「ニョニャだ」と言うことを聞く機会はありませんでしたが、独自のメンタリティがあるように感じます。
マラッカ、ペナン、シンガポールという英国海峡植民地の中でも特にシンガポールは、19世紀には大変な繁栄を見せます。しかし、自由貿易港であったことから、関税収入が得られず、英国にとっては、利益に源泉にはならなかったと記されています。こういったことから、半ば放置され、自由な発展を遂げたという背景も重要なキーワードでしょう。
日本から見て、近くの隣国といえば、韓国や中国ですが、その一歩先の、シーレーンの行く手には、東南アジアの国々があります。
マレーシアを理解する上でも、プラナカンに対する知識は必要だと思います。
本書は、東南アジア全体の現在の成り立ちに対する理解の助けになる良書です。
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